南西AUSの最高峰でとんでもない目に。 ―スターリング・レンジ国立公園―

19時現在
低く唸り声をあげる暴風雨にテントはバタバタと軋み、
面白いように翻弄されている。
四方八方から浸水があり、
天井につけたランタンはまるでサイレンのようにぐるんぐるんとまわっているから、この日記だって書きにくくてしょうがない・・
                ――――6月1日当日の日記より

2012年6月1日、西オーストラリア州南端の山間部。
「西オーストラリア州(南部)の最高峰」、スターリング山脈が数十キロ先に迫ってた。「最高峰」と聞いて登らないわけにはいかない・・そんな妙な動機が自転車のむかう先を山脈に向けた。中腹にある駐車場までは自転車で登れるという。そこにテントをはって一夜を過ごし、翌朝に登頂する計画をたてた。

ところが、山域に到着した日の天候はザンネンなくらい大雨&大風。
駐車場目指して自転車をこぐ間も横殴りの風にあおられ、何度も自転車を止めた。
「・・やっぱり止めようかなぁ」
そうは思いながら、結局は諦めきれず駐車場までやってきた。
引き返さなかったのは、”翌日から晴れる”というあまりあてにならないオーストラリアの天気予報を信じだからだ。
山の上のほうだけあって風の唸りは一段と増しているが、
何とか風よけになりそうな立派なトイレがあって助かった。
「運がいい。ここなら風をしのげる。」と、
建物の風下側にテントを張って夜を迎えた。

暗闇の山腹に風雨がこだまする音をBGMに夕食をたべて、本を読み、
リラックスした時間を過ごす。
あとはただ、翌日の晴れを願って床に就けばいい。
・・・はずだった。

――ところが、夜になって風向きがなんと真逆(!!)になった。
当然テントは雨風の直撃を受ける。
夜で・雨で・突風で・退避もできやしない。まさに万事休すだ。

テントは踊り狂い、あらゆる継ぎ目から浸水がはじまった。
機器類をビニル袋に放り込むと、せっせとタオルで排水作業をする。
「どうやら今夜は寝れそうにないナァ・・」
そう思うと、みじめな状況なのになぜか可笑しくて笑い出してしまった。
緊張感がないのは、周囲の人工物にロープをきつく結んであったし、何より建物のすぐ隣だから、飛ばされて死ぬことはまずないからだ。

「さて、明日の朝は本当に晴れるのだろうか・・
一か八かのこの予定、今のところどうやら”バチ”のようだけど・・」
そう思いながら、湿った寝袋にくるまると、いつのまにやら眠りについた。

****

翌朝、自分の目が信じられないくらいの快晴。
雲は見事になくなっていた。
出たばかりの朝日が、頂上付近の岸壁を淡く照らしている。

山頂まではゆっくり歩いて1時間30分。
頂上に立つと、その景色の広がりに息をのんだ。
地平線のかなたまで建物は一切なく、どこまでもフラットに森が続いている。うっそうとした緑の山々が大きく裾野を広げて佇む様子は、どこか日本の八ヶ岳の景色を連想させた。案内の看板が喧伝する「生物多様性のホットスポット」という文句も納得できる。

久しぶりの登山だったけれど、緑あふれる、いい山々との出会いにおおいに満足して、再び自転車にまたがったのだった。

topからの景色
stiringrange NP

テントを張った建物の裏
stiringrange NP carpark

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壁も電気もガスもない暮らしを目指したい

不思議なもので、
壁と電気とガスのある文化的な生活を続けていると
壁も電気もガスもないテントでの暮らしがひどく恋しく感じられる。

何もかもがスイッチ一つで管理でき、風の音も雨の音も聞こえないアパートの快適な空間。
そこにいると、何か大切な”感覚”を奪われているような気がしてならない。

自転車&テントの旅は今後も定期的にやっていこう、と改めて思っている。
荷物一式すべてを積んで自転車をこぐときの、あの突き抜けるような興奮や緊張感。
それらは心と体に刺激を与え、ごちゃごちゃした思考をきれいさっぱりシンプルなものにしてくれるからだ。

****

5月にテントの中で危ない目にあって
「やりたいことをやろう、英語を習得しよう、そのために留学をしよう」と決意をした。
その決意の影響で自転車旅をいったん止めることになったけれど、
それが逆に「今後の人生を通して自転車旅をやっていこう」という想いに繋がっていった。

そして今は8月。
このパースでの3ヵ月の中で、この2つの決意を叶えるにはどうすべきかを考えてきた。

ひとつに、数週間~1か月くらいの自転車旅を今後もやっていこうと思うのなら、
まとまった休みの極端に少ない日本で働くという選択肢は選べない。

2つめに、留学をするのであれば、そこで得たスキルをもって現地(海外)で働きたいと思うし、
現地で仕事を得られれば、「雇用」と「学歴」と「年齢(若さ)」と「英語力」が手に入ることになる。
・・・これはそのまま、移民の条件だ。だったら、永住権を目指していいのではないか。

留学して、仕事を得て、永住を目指す―― ..

死にかけて手にした想いはどんどん膨らんで
どうやら最低5-6年はかかる人生上のビッグ・プロジェクトになりそうだ。
もちろん努力の量が足りなければ今のままでは入学すらままならない。
やるべきことは山のようにあるけれど、
自転車旅で得た教訓の一つ、
“目的地がどんなに遠くとも、漕ぎ続ければ必ずたどり着く”――を信じて、
ペダルをこぎ続けていきたいとおもう。

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自己流 “42キロ完走術”

日本食レストランでの仕事も早1.5か月。
相変わらず”日本の職場的閉塞感”は肌に感じるけれど、
仕事の流れを把握してランチタイムの行列にも落ち着いて対応できるようになると、ちょっとしたやりがいのような感覚も生まれてくる。

「留学資金さえ貯まれば仕事はなんだっていい」

そう深い考えなしに始めたバイトだけど、これはこれで学びは多く、楽しくやっていけそうな気もしている。

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さて、以前もちょっと書いたパース生活の目的の一つ、
「海外でフルマラソン」が現実のものになった。

「PERTH MARATHON -CITY TO SURF-」http://events.sportsnewsfirst.com.au/event/perthcitytosurf/registrationfaq/

[パースマラソン シティ・トゥ・サーフ]
パースの高層ビル群のど真ん中からスタート、
海岸沿いのコースからキングス・パークという大きな緑地公園を経て
夕日の美しいといわれるビーチでフィニッシュラインを超える。
(..なんて魅力的!!)

2009年の沖縄マラソンですでに完走はしているから(4時間24分)、
今回は「4時間以内でゴール」と、目標を高めに設定して練習している。
(一年半も自転車乗ってたんだ、4時間くらい切れなくてどうする、という妙な自負もある)

以下に「自己流のマラソン術」を書いてみたいと思う、けれどその前に・・

アウトドアやスポーツをやっていて面白いなと思うことがある。
それは、どの運動においても、うまくなるうえで気を付けるべきことはとっても似通っているということだ。

すなわち、腰を入れる、わきを締める、重心や軸を意識する、etc..

自転車においてもそうだった。
坂道を上るときは身体の軸をブラさないように気を付けていたし
だだっ広い平原を走るときは腕の力を抜いて、骨盤に重心を乗っけるように意識して体力の温存に努めたものだ。

こういう「どの運動をする上でも意識する注意事項」を知ると、とたんにアウトドアは楽に・そして楽しくなる、と思う。

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***

さて・・以下、自己流42kmマラソン・テクニック。

フルマラソンにおいて一番重要なのは、「フォーム」だ

無駄な力をつかわない、と言い換えてもいい。
体力の無駄遣いは、10キロくらいでは問題なくても42キロ分も積み重ねると膨大なロスになる。

そこで、正しいフォームを獲得する上で大切なキーワードがある。
それは“2本の軸”

すなわち、かかとから脳天に抜ける軸と(タテの軸)、
おへそから前方に伸びていく軸(ヨコの軸)のことで、

タテ軸への意識は、左右のブレをなくしてくれる。
操人形のように頭の上から見えないタテ軸を引っ張られているように意識するといい。そうすると骨盤の上にうまく重心がのり、左右ブレがなくなる。
また、タテ軸を地軸のように前方に5~10度ほど傾ける。
そうすると次の一歩が出しやすいのだ。

ヨコ軸は「身体が行うすべての運動」を、「前方へ進む力」に集約してくれる。へそから前方に伸びている、というのがミソだ。疲れて前かがみになるのを防いで、常にシャキッと一定のフォームを保てる。

この”2本の軸”をサポートするのが
「足の出し方」と「腕の振り方」。
足はあまり高くあげずに前に出す。また、腕は多少大げさに振ってかまわない。振るというより、引く、というイメージを持つといいと思う。

以上の事項の意味するところを集約すれば、
「すべての体力を前に進む力に変える」ということになるだろう。
もっと細かい点はあるけれど、以上のことを意識するだけでも、
初マラソンの人は10キロ挑戦へ、
10キロやった人はハーフへステップアップ、
ハーフを何度かこなした人はいよいよフルマラソンへ・・
それぞれのマラソンをレベルアップできると思う。

・・・どなたかのマラソンライフにこの記事が寄与できれば幸いです
それではまた!

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4頭のイルカ

そういえば、ナラボー平原でエミューと自転車で並走したことがあった。
道端の茂みの間にいたつがいのエミュー、
彼らは突然の自転車に慌てふためいてパニックをおこし
なぜだか同じ進行方向に走り出したのだ。
「やった、エミューと並走してる!!」
・・・と思ったのは、しかしほんの数秒。
エミュー夫妻は気を取り直して、90度直角に曲がって茂みの中にサッと姿を消したのだった。

****

そんな出来事を、そのとき思い返していた。
目の前には4頭のイルカ。
僕はのんびり自転車に乗って、浅瀬を泳ぐかれらと並んで走っていた。

仕事帰りの河口沿いのサイクリング専用道路。
街の中心部まであと5分という、大都市パースの目の前の海でイルカに出会った。
岸に沿って泳ぐ彼らにくっついて自転車を走らせる。
時速は10キロもでていない。

彼らはひくい電子音のような音を奏で、同じ場所をいったりきたりした。
何してんの?、と海を覗き込むと、20㎝くらいの小さな魚を、大の(?)イルカが4頭そろって追いかけっこしているのだった。
イルカに咥えられ、放たれ、また咥えられては逃げるその魚を気の毒そうに眺める。
するとふと、そいつと目が合ってしまった(と思う)。
「命だけは…!!」。 
弱々しく、しかし必死のギョうそうで泳ぐそいつは、あぶくを吹きながらそんなことを言っていた気がする。

*****

イルカのすぐあとをペリカンが追いかけていく。
きっとあのペリカンは、イルカが遊び残した小魚を狙っているんだろう。
イルカと別れて街にむけて自転車を漕ぎだすと、
たくさんの鵜が岸辺で羽を広げて日光浴をしているのが見えてくる。
自転車で1mまで寄っても逃げない。知らんふりしてぼーっとしているのだ。

どうも、ここパースの海沿いのサイクリング道路は、
野生と街との境界があやふやだ。
緊張感がないというか・・どこまでも平和というか。
境界というよりバファー・ゾーンなのかもしれない。
なんにせよ、不思議な空間には違いない。

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Valley Of The Giants~巨木カリーを求めて~

一羽のペリカンが鏡のような水面をすれすれに滑空していく。
マジック・アワーと呼ばれる日没ごろの残照と静寂があたりを覆い、ガソリンストーブのボォォ・・という安定した音だけが妙に大きく聞こえる。そのとき、西オーストラリア州南部・ワルポールという国立公園に囲まれた小さな町のほど近く、山々に囲まれた入り江にテントを張って、目の前の風景に見入っていた。

リンとした自然の静寂には、いつも力強さを感じる。
僕はそのとき、昼間出会った巨木たちを前に感じたことを連想せずにはいられなかった。

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その日、巨木を求めて、Valley of the Giants=巨木の谷と呼ばれる場所を訪れた。西オーストラリア州の南部、パースの南方約500kmにあるその谷は、「カリー」と「ティンクル」という、巨木で知られる樹種がいまだに現存する場所。それをどうしても見たかったのだ。そして、触れてみたかった。

その地域に自転車で近づくにつれ、周囲の様子が変わっていくのが手に取るようにわかった。だんだんと木々が高くなってきて、首がいたくなるほど見上げながらのサイクリングになってきたからだ。パンフレットによれば60mもある。大人数人がかりが手をつないでやっと胴回りを囲えるような幹の木も、道路沿いに立ち並ぶようになってきた。

うねる道、急登の坂を登り切り、たどり着いたValley of the Giants。
そこはまさに”森の主”たちの居処だった。
きっとこの地域の最高齢と言っていい木々たちなのだろう。
幹の根本の部分は朽ちて大きく空洞がひらき、そこをくぐれるようにウォーキング・コースが伸びてさえいる。前日の雨を含んだ幹はみずみずしい光沢をおび、天候に翻弄されてきた彼らの生き様は、皮膚のうねりとなってその歴史を刻んでいる。掌をあてれば、その生命力がダイレクトに伝わってくるかのようだった。

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個人的に、自然というものは生きる上で大事なことはなんでも教えてくれる、と思っている。(学び取る心がいる、とも思う。)
特に、「樹」という対象から学ぶことはとても多い。それが老齢であればあるほど、その生き様は人のこころを打つ。

valley of the giants、「巨木の谷」は、その点でとても重要な場所だった。巨木一本一本が、それぞれ別の語りかけるべき言葉を持っていた――そういってもいいのかもしれない。

※これは6月4日(2012年)・パースまであと500キロ地点の回想録です

valley of the giants (walpole, WA)

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