Valley Of The Giants~巨木カリーを求めて~

一羽のペリカンが鏡のような水面をすれすれに滑空していく。
マジック・アワーと呼ばれる日没ごろの残照と静寂があたりを覆い、ガソリンストーブのボォォ・・という安定した音だけが妙に大きく聞こえる。そのとき、西オーストラリア州南部・ワルポールという国立公園に囲まれた小さな町のほど近く、山々に囲まれた入り江にテントを張って、目の前の風景に見入っていた。

リンとした自然の静寂には、いつも力強さを感じる。
僕はそのとき、昼間出会った巨木たちを前に感じたことを連想せずにはいられなかった。

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その日、巨木を求めて、Valley of the Giants=巨木の谷と呼ばれる場所を訪れた。西オーストラリア州の南部、パースの南方約500kmにあるその谷は、「カリー」と「ティンクル」という、巨木で知られる樹種がいまだに現存する場所。それをどうしても見たかったのだ。そして、触れてみたかった。

その地域に自転車で近づくにつれ、周囲の様子が変わっていくのが手に取るようにわかった。だんだんと木々が高くなってきて、首がいたくなるほど見上げながらのサイクリングになってきたからだ。パンフレットによれば60mもある。大人数人がかりが手をつないでやっと胴回りを囲えるような幹の木も、道路沿いに立ち並ぶようになってきた。

うねる道、急登の坂を登り切り、たどり着いたValley of the Giants。
そこはまさに”森の主”たちの居処だった。
きっとこの地域の最高齢と言っていい木々たちなのだろう。
幹の根本の部分は朽ちて大きく空洞がひらき、そこをくぐれるようにウォーキング・コースが伸びてさえいる。前日の雨を含んだ幹はみずみずしい光沢をおび、天候に翻弄されてきた彼らの生き様は、皮膚のうねりとなってその歴史を刻んでいる。掌をあてれば、その生命力がダイレクトに伝わってくるかのようだった。

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個人的に、自然というものは生きる上で大事なことはなんでも教えてくれる、と思っている。(学び取る心がいる、とも思う。)
特に、「樹」という対象から学ぶことはとても多い。それが老齢であればあるほど、その生き様は人のこころを打つ。

valley of the giants、「巨木の谷」は、その点でとても重要な場所だった。巨木一本一本が、それぞれ別の語りかけるべき言葉を持っていた――そういってもいいのかもしれない。

※これは6月4日(2012年)・パースまであと500キロ地点の回想録です

valley of the giants (walpole, WA)

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