野生動物のすぐそばでーある日のテント・ナイト

コシウスコ最寄りの町から走りだし、
南にあるメルボルンに向かっていた2日目の夜。
山中のダートはアップダウンを繰り返してヘトヘトになっていた。
何とか予定していた川沿いのキャンプサイトに着いたが、時刻はすでに6時前だ。
テントを張って食事を作る、そのいつもの動作を繰り返すと、
いつものように日が沈み、夕闇がうっすらとやってきた。

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皿を洗いに川のほうに降りて行った。
ふと視線を感じると、先客が水辺からこちらを見ている。
こっちを向いて微動だにせず、背すじをぴんと伸ばした、2頭のカンガルーだった。
あまりに姿勢がよろしく、ついついこちらも背筋を伸ばしてしまう。
かわいいやつらだが、どいてくれないと皿が洗えない。
少し迷いながらも歩き出すと、
「なんだよ、来るのかよ」と言いたげな表情をむけて、
トッ、トッ、トッ、と草むらの中に去っていった。

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今日のキャンプサイトには誰もいない。
夜のとばりが降りると、森から聞こえる小さな虫たちの響きが静寂を際立たせた。
テントの中で水辺の出来事を思い出した。
何の会話もない、あの小さなできごとが、
まるでショートムービーを見るように頭の中で回想される。
あのカンガルーはまだこの近くにいるのだろうか。

そしてふと、今、彼らと同じ空間に野営をしていることに気が付いた。
彼らもいま、この暗闇の中で確かに生きている。
そのことが、少し暖かく感じられた。

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