あのシェドなら安全だ―オーストラリアでのテント泊の注意点

その日、シドニーからキャンベラに向かって牧草地帯を走っていた。
午前中快晴だった天気は午後になってにわかに曇り、
みるみるうちに大雨が降りだした。

防風林の下で雨が上がるのをまって、ハイウェイから外れて脇道へ入っていった。次の雨が来るまでに、どこか適当なところにテントを張りたかったからだ。

運よく放牧地のはずれに、小高い防風林に囲まれた小さな芝生の公園を見つけた。木の下なら雨が降っても安心だし、平坦だからテントを張るには絶好の場所だ。
そうしてテントを張っていると、地元の人らしいおじさんが通りかかり、何か言いたげな顔をしてこっちに向かってきた。

「ここは危ないぞ。雷が来たら死んでしまう。」
おじさんは早口な英語でまくしたてるようにそう言った。
確かにテントは防風林の真下にある。
でも、雷が落ちる確率なんてたかが知れてるはず。
自分としては雨に濡れないほうが大事だったから渋っていると、
「毎年何件か事故があり死人がでている。それに、大きな枝が落ちてきて危ないんだ。特にパイン・トゥリー(松の木)は枝が折れても音がしない(避けようがない)。別の場所に移ったほうがいい。」
と、雷や枝の落下がどれだけ危険か、身振り手振りを交えて熱心に教えてくれた。

*****

実は別の場所でも、一泊お世話になったオーストラリア人が似たようなことを言っていた。

どうやら、オーストラリアという国は、日本人が思っている以上に
「雷」というのが身近なようである。
そういえば放牧地の丘の上には必ずと言っていいほど黒々と焦げて幹だけになった大木が佇んでいるし、
トレッキングをしていると黒く焼けただれたり、焦げて裂けた木を頻繁に見かける。
つまりそれだけ雷が落ちているということなんだろう。

オーストラリアでテント泊をするときは、
何より雷の存在を考えてテントを張る場所を決めないといけないようだ。
おじさんのレクチャーはいい教訓になった。

*****

最後におじさんは、牧草地の隅にある平屋の建物を指さして
「あのシェド(倉庫)ならここより安全だ。
あれは俺の友人の敷地だから、今晩あそこでねるといい。」
とまで言ってくれた。
少し遠くて裏側の壁しか見えないが、何か資材置き場のような外観だ。
ありがたい、屋根付きでテントを張れるなんてなんて幸運だろう。

感謝の言葉を何度か口にしてその倉庫に向かい、
入り口を探そうと表側に回ってぶったまげた。
建築や農業用の資材置き場かと思いきや、資料ではなく”飼料”、
つまり干し草が山となって積まれていたのである。
キツネが2匹、心底驚いた顔をして、てぇぇーと逃げて行った。
しばらく近くの牛を見つめていた。
結局、この日は、倉庫裏の小さな草地にテントを張ったのだった。
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