ある日のテント・ナイト ~絶壁と南十字星の夜~

 オレンジ色に変わろうとする夕日にせかされながらキャンプ地を探していた。オーストラリア大陸南西部にあるナラボー平原は東西に一直線にハイウェイがのび、西に向かって走ると左手には大海原、右手には見渡す限りの草原が広がる。その日の走行が100キロを超えたころ、タイミングよく展望エリア(休憩所)のサインが見えて”チェックイン”する。

展望台の柵を越え、崖っぷちにテントを立てる。
ナラボー平原と海の境は崖だ。高さ50m以上の断崖絶壁が100キロ以上にわたって延々と伸びている。その絶壁を目の前にキャンプができたらどんなにいいだろう、と思ったのだ。
テントの中から入り口を開けると、絶壁の向こうに碧い海が丸い水平線をえがき、地図をみれば半径100km四方には民家すらない。
「どうだ、これ以上のロケーションは地球上探したってそうそうあるまい――」
残照のなか、満点をあげていい素晴らしいキャンプに気分が高まった。

 その夜、星をみるために外に出た。
風はあるが思ったよりは寒くない。
ロードハウス(ガソスタ)の明かりだろうか?背後にひろがる黒い地平線に、まるで淡いスイレンのように小さく光の花が咲いている。次のロードハウスは100キロも先のはず・・いったい何てところだろう。
天の川は白くにごり、オリオン座や南十字星がその河の中に一際くっきりと見える。じっと見つめていると闇に吸い込まれそうになるほどだ。冷たく激しい星空と漆黒の大地にはさまれ、立ちすくむような孤独感と卑小感を覚える。が、そこには不思議なほど安心感がある。いだかれる、そう言ってもいいのかもしれない。

今夜は風がやみそうにない。いつもは夜になるとぱたりと止むのに。
風がテントをたたく音を聞きながら寝袋に入り込む。
風の音、闇の広がり、ひしめく星たち・・
大自然のありのままの姿に畏怖を覚える――
それはきっと、本当にいいキャンプの証に違いない。

※リンク
「ある日のテント・ナイト」シリーズ①
野生動物のすぐそばで―ある日のテント・ナイト(2011年1月)

カテゴリー: 5.パース編 パーマリンク

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