本気でやらなきゃ意味がない

あれは一ヵ月も前のことだったか。

自転車で海沿いを旅していたころ、ある町の図書館に立ち寄った。
大きな町に着いたらいつもしていることだった。図書館を探して涼しく快適な空間で机を前に一息つき、つかの間の文化的な生活を享受するのだ。

図書館を探し出してエントランスのそばに自転車を停めた。
建物に入るときは、あえて人通りの多いエントランス付近に自転車を停めるのはチャリ旅の常とう手段だ。物陰にこっそり止めるより、荷物を取られる心配はかなり少なくなる。そうして自転車をおいたあと、水を飲んでふと目を上げて驚いた。おそらくまったく同じ思考回路の末に停めたのであろう、これまた風体が同じ荷物満載の自転車がエントランスの反対側の壁にもたれかかっているではないか。
「同じ旅の人間が図書館で涼をとっている!!」
すっかり嬉しくなってヘルメットとパソコンを手に持って中に入っていった。

そこで会ったのは台湾人のステンリーという男だった。
いかにもサイクリスト、といった格好をして、パソコンに向かってこれまでの旅の情報を記録しているところに挨拶をする。
ステンリーも相当に喜んでいるようだ。アジア人サイクリストに会うことはやはり稀なのだろう。
図書館だからそれほど大声を出せないのが残念だったが、ひとしきり会話を交わすとマップを持ち出して情報交換をした。お互い逆方向に走っていて、それぞれがこの先ほしい情報を持っているのだ。特に自分の場合はこの先に砂漠地帯のナラボー平原越えを控えていて、水がどこのロードハウス(簡易なサービスエリアのようなもの)で手に入るかという情報が生で聞けるまたとないチャンスである。
ステンリーはこれまであったサイクリストの中でもとりわけ情報量が豊かだった。町から町までの距離や高低差はもちろん、それぞれの街のスーパーの規模だけでなく、数か月も前に通過したはずの小さな町の無料シャワーの場所まで頭に叩き込んである。彼のマップには有益な情報が所狭しと書き込まれていた。

こちらが欲しいだけの情報をくれたステンリーは、さてじゃぁ次は僕の番だね、というようにメルボルンやシドニーに至る道の情報を聞いてきた。
ところが、こちらのマップには泊まった場所がどこかだとか、この道を通ったとかごくごく基本的な情報しか書き込まれていない。頭の中にあるのも、あの山地はキツかったよなぁ、とか、そんなことばかりで具体的なものは何一つない。ついには先日通過したばかりの街に小さなスーパーがあったかどうかすら答えられず、どうやらステンリーは有益な情報は得られないと判断したようで話題は別の方向へ進んでいってしまった。

*****

「やる気さえあれば素人でも大陸一周くらいできるのだということを証明できたらいい」そういうことをこのHPの「はじめに」の項でも書いた。でも、この姿勢で本当にいいのだろうか?「まぁ何事もなんとかなるさ」、そういう気持ちでこの先も進んで行っていいのだろうか?

・・この旅を終えるとき、自分のしてきた旅に自信を持つことが本当にできるだろうか――――

ステンリーと握手をして別れてから、いや別れる前からすでに、自分の中に芽生えた違和感をぬぐいきれずにいた。

「なんとかなるさ」、こういう姿勢でもできてしまうことだけをやり遂げて、後年そこにどれだけ価値を見出すことができるというのだろう。中途半端に知識や経験を身につけたって、結局あとには何も残らずそれゆえ自信も持てず誰の上にたつこともない。そしてそんな旅は決して誰の記憶にも残らない・・。
――俺は、そんな旅をしに来たんじゃない・・!!

ふと、タスマニアのヴィンヤード(ワイン用グレープのファーム)で一緒に長く働いていたホーンという男のことばが頭の中によみがえった。
そいつはどんなことも一生懸命やるやつで、仕事も遊びも全力投球、という竹を割ったような気持ちのいい男だった。そいつはいつかの仕事の合間に、俺にこういったのだ。

親父に幼いころから言われ続けた言葉があって、
その言葉が今も俺を支えているんだ。
親父はよくこう言ったよ。
どんなことでも、”どうせやるならプロになれ” ―――ってね。

******

ステンリーやホーンにあって、俺に決定的になかったもの。
それはまさしく”プロになってやる”、という姿勢なのだろう。
社会人をやめて退路を経って旅に出て、それで何も残せず「いい経験でした」で旅を終えてしまっては、自分にも、応援してくれる周りの人たちにも、自分の決めた道に対しても失礼だ。もっともっと早く気付くべきだった。

この意識の改革を経ると、自然と”旅の後に進むべき道”も少し見えてきた。5年後、10年後の「あるべき姿」が少しでも見えると今取るべき行動も変わってくるはずだ。今後のオーストラリア大陸一周、そのあとの他の大陸でのサイクリングにおいても、この意識をベースにして走り抜けていきたい、今はそう強く思うようになっている。

(アデレード、戦争記念碑のある公園のベンチにて・2012年3月4日)

カテゴリー: 4.アデレード編 パーマリンク

4 Responses to 本気でやらなきゃ意味がない

  1. masa のコメント:

    イイネ。すごく共感。
    どうせ何かするならプロを目指すひたむきな気持ちは誰かの心を打つよ。

    年寄り臭いけど、そういう気持ちの人って少ないから光ると思う。

    頑張っていこう!

    • chirujirou のコメント:

      >masa
      「イイネ」押してくれてありがとうです(笑)

      いま目の前のことくらい知り尽くさないで、一体日本かえって何ができるようになるってんだ、今はそういう気持ちが強いかな。アウトドアのこと、自転車のこと、英語も文章も写真も・・・・もっと詰めていきたい。なりふり構わず頑張ることに”ふっきれた”ような感じがしているよ。 人に何らかの”きっかけ”を配れる旅でありたいね。がんばりまっす

  2. あゆみ。 のコメント:

    自分のしてきたことに自信が持てるか。。。心に突き刺さりました。自分の旅は自己満足だったから余計に(笑)
    数年後の自分が何か一つでもなしとげられているように頑張ろうと思わせていただきました!!
    みのるさんの旅ブログにはいつも色々考えさせられてます!ありがたい!!

    カンガルー島いけなかったので次オーストラリア行く時はぜひ行ってみたいなぁ~
    パースまで長い道のり頑張れ~きれいな
    sunset beachが待ってます♪♪ お勧めはFremantle。ヒッピーな人がたくさんいておもしろいですよ~あっオーストラリアにはどこでもいるか(笑)

    • chirujirou のコメント:

      いつもコメントありがとうございます♪
      このブログが何かちょっとでもきっかけをつくれれば幸いです^^

      サンセットビーチですかー!Fremantle、なんか地名だけは聞いたことありますね。
      パースのこと何もしらないのでおススメ情報はありがたいです!
      きっと行ってみます。
      あ、パースの仕事情報あったらもっとありがたいです笑

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。