マレーシア - 雨のち、魚のうろこ

(以下は、マレー縦断中にUPしきれなかった回想録です。)

マレーシアに入国して8日が過ぎ、
容赦をしらない日照りの中を自転車にまたがる毎日が続いていた。
走っているうちは風がをうけて涼しいが、停まるとむわっと群がってくるような暑さ。
そんな日はつとめて、休憩の回数を少なくするようにしていた。
だいたい20キロこいで、木陰に自転車を止めて長めに休憩を取る、という具合だ。
この日は屋台で買ったマンゴーを休憩の度にほお張っていた。
これはそんな休憩中にであった、夏のひとコマ―――

※※※※※

休憩を取るにちょうどいい木陰を見つけて自転車をとめた。
道の両側に広々とした水田が続く中、ぽつんとやしの木が2本たっている。
その小さな木陰に身をかがめるように座って休みをとった。

ふとみると、やや離れた電線の上に鮮やかな青をまとった--日本のそれと変わらない--カワセミが止まっていた。
写真を撮りたい、ととっさに思ったが少々遠すぎる。
カメラを取り出すのはあきらめ、変わりにバッグからマンゴーを取り出した。

黄色く熟れた果実を頬張っていると、
そのうちバサッと何か真上で物音がした。
見上げると、その先にはなんと先ほどのカワセミ。
どうやら近くの水路で狩りを終えたばかりらしく、自慢の嘴に小さなフナをくわえている。
近くにきてくれたが、今度は真上すぎて写真はとれそうにない。
あきらめて、驚かさないようにただじっと動向を見守ることにした。

カワセミは魚を何度も枝に打ちつけはじめた。
飲み込む前に息の根を止めようとしているんだろう。
・・・と同時にパラパラと頭の上に何かが降ってくる。
黒く日焼けした腕の上に落ちたそれを見て、ギョっとなった。
それは何枚もの魚のうろこだったからだ。

まったく最近はいろんなものが降ってくる。
タスマニア島ではヒョウに降られ、
先日は初めてスコールに見舞われたばかり。
そして今度は魚のウロコだ。
まったく村上春樹の『海辺のカフカ』じゃないんだから・・

ウロコの雨がやむと、カワセミはさっと魚を飲み込み、
嘴を枝にこすり付けてキレイにしたあとどこかへ飛んでいった。

つまりたったそれだけのことなのだけど、
わずか10分たらずのこの出来事を妙によく覚えている。
あの鮮やかな青い翼が、記憶の中から飛び立ってくれないのだ。

マレーシアで出会った、暑い暑い夏の一コマだった。

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